葛飾北斎伝 (岩波文庫)

詳細

• タイトル: 葛飾北斎伝 (岩波文庫) de 飯島 虚心
• ISBN: 4003356217
• ファイル名: 葛飾北斎伝-岩波文庫.pdf
• 発売日: 1999/8/18
• ページ数: 418ページ ページ
• 出版社: 飯島 虚心

著者の飯島半十郎（虚心）は天保11年～明治43年まで生きた浮世絵の研究家であったという。天保11年と云えば江戸も末期に差し掛かり、アメリカペリーの来航は虚心が16歳の時である。飯島半十郎は、将に江戸末期から明治の終わり近くまで、日本近代史の激動の時代の中心を生きたのであった。現代では浮世絵の価値が見直されて、北斎にしても広重にしても、初刷りの浮世絵は高額で取引されているが、彼らが生きていた江戸日本の絵画史の中では、狩野はや土佐派の絵画に比べて、浮世絵の価値はあまり高くは無かった。庶民に取引されるブロマイドという位置付けが正当な所であったろう。しかし江戸末期から明治にかけて、西洋人の渡航が為されるに従って。次第にこの浮世絵の価値が認められ始め、特に斬新な構図とデフォルメによって葛飾北斎は大いに称賛される画工になった。飯島虚心は、この北斎の人物に興味を持ち、まだ北斎を知る人が生きている内にその聞書きを書き留める仕事をし出した。この仕事は実に時期を得た見事なものであった。我々が少なからず北斎を知る事が出来るのは、聞書きを書いてくれた虚心の仕事のお蔭である。ところで虚心も呆れているが、北斎の人物を思うにつけ、その転居癖と改名癖は、或る意味では、北斎の性格の同じ温床から出て居る物に思える。江戸時代人としては、驚くような長命の人生であったにも係わらず、北斎は百歳まで生き、仕事をする事を望んでいた。江戸の世で、とみに喧伝されるのは、この浮世絵の噂と和算の世界に誇れる日本の数学文化である。古代以来続いた、数学の文明は伏流水として永く地中に流れ、それが表面に出て来たのは長い平和が続いた江戸時代に成ってからであった。一旦、表面に出るとその隆盛は素晴らしく、日本人の基本的な能力の高さに我ながら誇りに思う。ところで、葛飾北斎を筆頭に多くの画工（浮世絵師）が輩出した背景には、江戸時代の社会風俗が有った様に思います。菱川師宣あたりから勝川派その他の流派が乱立し、浮世絵の隆盛を見る事に成る。浮世絵自体は茶屋の美人画として始まり、吉原の行状を描いた枕絵や春画が本流である。彼らは性道の追求に極めて熱心で有り、道徳の糜爛ともいえる状況を創った様です。文化文政の30年間ですね。白河公の寛政の改革で贅沢奢侈にながれる世の中を粛正しょうと無鉄砲な政策を実施しました。定信らしい石頭です。江戸時代の刑法では心中は大罪で、生き残れば非人に指定され処払い、不義密通は死罪でした。僧侶の女犯は江戸市中に晒しものにされています。その上、僧侶の資格をはく奪されて居る。その点、僧侶の衆道や稚児遊びは認められていたというから、実に変な性道徳だったと思われます。宗教は自然な本能を抑圧する所から始まる様です。カトリックでも昔から稚児遊びは法皇自体が実施して居た訳であり、フロイト的に宗教を精神分析すると或る種の倒錯した観念に基づいているヒステリーの一種と考える事でしょう。