ゲーテ全集〈3〉

詳細

• タイトル: ゲーテ全集〈3〉 de ゲーテ
• ISBN: 4267001723
• ファイル名: ゲーテ全集-3.pdf
• 発売日: 1992/6/1
• ページ数: 477ページ ページ
• 出版社: ゲーテ

これまでの「ファウスト」の翻訳は鴎外の翻訳を除くと、ほとんど満足のいくものがない。鴎外の翻訳は、鴎外の該博な語彙力に圧倒され、また、ゲーテと鴎外両方を体験できる類稀な逸品だったが、それでも、楽しめるか、と言われるとそれは無理だった。だが、この翻訳は、現代の日本語として、極めて自然であるが、迎合的な通俗さとは無縁の日本語で、「日本語の詩」として、堪能できる仕上がりになっている。委曲を尽くした語彙の選択、そして、十二分でツボを得た注釈、には、それだけで脱帽。翻訳者の学識と才覚を絶賛したい。一方、作品の全容が明らかになるに従い、この作品の悪しき「神話」も破壊されるだろう。第一部は、あきらかに巨匠の風格、抜群の仕上がりと言っていいが、二部は、難産の結果だけあって、とんでもない化け物になってしまった。一部とは何の関係もない、同名の題名の違う作品があるということだ。ヒューム（懐疑主義）、フィヒテ（観念論者）など、実在の思想諸派を皮肉ったいささか不必要な諧謔やら、酔狂にも、トロイア戦争の登場人物、ヘレナとパリスとメネラオスが出てきて、あげく、ファウストがメネラオスと戦争までしている。ファウストが領土欲を起こし、理想国家の建築に情熱を燃やす流れも、必然性がなく唐突なだけ。「瞬間」に人間性の至高の価値を見出すあたりは、芸術家らしいが、そういう尖がった、非日常的な特殊ケースに、ことさらに価値を認める辺りが、僕には、エクセントリックで、どこかヒトラーの様なファシストに一脈趣味を感じて却って嫌悪を感じる。とはいえ、失敗作（そう言って良いと思う）第二部でさえ、豊饒な語彙と、相当な詩的言語の展開は、やはり巨匠の名にふさわしいことは認めなければならないと思う。でも、作品としての不自然さ、革命性や新しみの微塵もないくせに、構えだけ大きい、大自意識家の体臭は、拒否したくなる。同じ巨匠でも、そして多くの踏み外しがあっても、もっと現実に対して真摯で、問題解決型であったヘーゲルのほうが、遥かにドイツ代表の名にふさわしい。この作品を読んで、ドイツが遠のいた感じがする笑。